モロッコ
生きた中世都市フェズ


 フェズは八〇八年にイドリス二世によってイドリス朝の首都に定められて以来、現代までいくつ
 かの王朝を経ながらも宗教的、文化的な伝統を持ち続けている町である。九世紀に建てられた
 カラウィン・モスクを中心に、無数のスーク(バザール)が多数の迷路をつくり、旧市街フェズ・エ
 ル・バリを彩成し、その外側を巨大な城壁が取り囲んでいる。ここはまさしくイスラム中世都市が、
 そのまま今日まで生き続けている貴重な町である。
 町に入るには、バブ・ブー・ジエルード門、バブ一ジュディド門、バブ・ギィッサ門などから入ってい
 く。どの門から入っても、物凄い雑踏の中に、庶民の底知れぬエネルギーを実感させられる。道は
 迷路のように入りくみ、ガイドなしでは自分がどこにいるのかも分からなくなってしまう。やっとたど
 りついたカラウィン・モスクも、異教徒は中に入れない。
 非イスラム教徒は、わずかに入り口のドアごしに、二万人を収容するという美しい中庭と身体を清め
 る泉をかいま見るだけである。ブー・イナニア・メルデサ、アタリン・メルデサなどのイスラム学枚、ザ
 ウイア・ムーレィ・イドリス修道院なども、ドアごしに中を覗くだけである。とにかく、ここではまだアッラ
 ーの神は碓実に生きていて、人々の敬虔な祈りをしばしば見かける。スークもまったく広大で、どこで
 何を売っているかなかなか分からない。しかし尋ねあぐねて、ふとドアの隙間から華鹿なモザイクの中
 庭などを見出すと、思わずしみじみとした旅愁にひたってしまうのである。


1

2
1  フェズはモスクを中心にスーク(バザール)があり、外側に城壁をめぐらせた生きた中世都市だ。
2  スークには民族衣装をつけた女性たちが、毎日買い物に集まる。


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